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このお題,今風にアオハルとは読まない。あくまで,セイシュンと読む。それも「セ」に少しアクセントを強調して短めに読んで欲しい。僕のあお~い,わか~い時代の話しを綴っていきたいと思っている。3回目は、高校時代の、自分にとっては大きな経験を、第3者的に記したものをそのまま出すよ。題名は「孤独」。
前回あぁ青春シリーズ
薄暗闇の中、彼は席から立ち上がった。ついさっきまでおさまっていたはずの心臓の音がまた少し高まってきている。目の前で繰り広げられている劇に心を集中させている周りの約2000人の人々と違って、彼は劇の後にひかえた大役のほうにむしろ神経をはらわねばならなかった。
ブザーがなり、舞台がうっすらと明るくなったために、席を離れた彼の影があらわれたが、彼の行方を目で追う者はいない。皆クライマックスに近づいた劇に心を奪われているのだ。しかし、彼は暗い通路につまづきそうになって、下を向いて頭をかいた。まるで2000人の人間が自分の行動に気づいていると思っているかのように。彼は出口までがとても長いように感じたにちがいない。彼はトイレに向かっていた。トイレに続く廊下はジュータンがひかれているため、彼の足音は吸い取られ、彼の存在までも消えてしまうようだった。彼の目的はもちろん用をたしにいくだけではない。
トイレに人気がないのを確かめると、彼はほっと息をついた。と同時に「なぜ自分が?」と自分に問いかけ、あわてて、「いまさら、闘うしかない」と自分に言い聞かせた。3枚張りの鏡の前に立つと、昨日短くしたばかりの髪に目が行き、そしていつもの無精ヒゲがないことに気づいた。今日のために自分なりに外見も準備したのだ。「よし!」っと前向きな気持ちが勝ったようだったが、一歩下がってみると、頭の大きさのわりに肩幅がないなぁとまず思った。また学生服は少し丈が長すぎる感じがする。「若いのに苦労してるんだねー」とからかいのネタにされる白髪が後頭部に何か所か目立っている。
こんな格好で俺は人前に出るのか。ふと頭の上から場内の笑い声が響いた。席を外した時も場内の状況がわからなくならないようにトイレにスピーカーが配備されていたのだ。「贅沢な設備だ。」と彼はつぶやいた。彼を除いて、学校じゅうの全員が劇にのみこまれているのだ。そんな中、彼はただ一人冷静になろうとしている。まぶしいくらいの白いタイルばりのトイレのスペースで真っ黒な学生服は実に彼に似合っていた。彼はまた「なぜ自分が」と言いそうになった口を押さえるように頬を手のひらで軽く2度たたいた。
場内を出て何分経過したのか、全くわからなかったが、もう行かねばと思って暗誦を3回済ました原稿用紙を丸め、くず箱の底に叩きつけた。さっきまで観ていた劇の感想も即興的に盛り込まなければいけない。だが、考える間も無く、時計の長針は彼の出番予定の30分を回っていた。緊張するとクセみたく頻繁に出るはずのあくびは、なぜか今日は出ない。「緊張しすぎているのか?」
もう一度、鏡をのぞき込む。そして少し笑ってみる。この時、最近、増えてきた頭の若白髪などもう彼の目にはうつらなかった。「おちつけ、おちつけ。」というつぶやきとは裏腹に心臓は着実に大きな音をたてだした。胸に手をあてなくともわかるぐらいである。足早にトイレから廊下に出た彼の頭上から、また場内のドッという笑い声が聞こえていた。
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